スタッフリレーインタビュー 第7回
プロデューサー 松倉友二
『クジラの子らは砂上に歌う』、放送前スタッフリレーインタビュー第7回は、本作のアニメ制作を担当する映像制作会社「J.C.STAFF」のプロデューサー、松倉友二氏。数多くのアニメ作品を世に送り出してきた松倉氏が、『クジラ』に感じた魅力とは。また、その魅力をアニメーションに反映するにあたっての体制づくりについても紹介いただいた。
キャラクターたちが活きていて、物語があって、きちんとエンターテインメントになっている作品に
—— 『クジラ』の原作を読んだとき、どのような印象を受けましたか?
松倉 色合いも含めて、やはり表紙のインパクトは大きかったです。読み進めてみると、絵が非常に丁寧に描かれている一方で、物語的にかなりハードな内容になっていて。最近の漫画は、どちらかと言うとキャラクター性を重視した内容が多い中で、『クジラ』はストーリー重視で描かれていますよね。(複数のキャラクターに視点を当てる)群像劇としての体裁がきちんと守られているところにも感心しましたし、そういう部分に惹き込まれていきました。原作を読んだ当時はまだコミックスは3巻ぐらいの段階だったのですが、早く続きが読みたいと思いました。
—— アニメ化するにあたって、どのように本作の特性を引き出そうとしたのでしょうか?
松倉 まずビジュアル面でいくと、この漫画のテイストに合った質感の映像を作ってみたいと思いました。キャラクターや背景美術も含めて、原作の特徴をアニメーションで再現していくことですね。
—— それはスタッフィングなどにも影響したのでしょうか。
松倉 もちろんそうですね。企画を持ち込んでくれたバンダイビジュアルの山田(美優紀)プロデューサーとも何度も話し合いながら、制作していく上でどのように体制を構築するのかを考えました。特に監督や美術、キャラクターデザインに関しては、こちらからも積極的に候補を出していきました。
—— これまで実景ベースの作品に多く携わっていたイシグロ(キョウヘイ)監督にお声がけした理由はどのようなものでしょうか?
松倉 それまで手掛けたジャンルで監督を選ぶのはナンセンスだと思っていて、キャラクターの成長を描く手法において、今回はイシグロさんが最適なのではと考えました。イシグロさんは心情をきっちりと描くかと思えば「こんな描き方をするの?」と驚くような演出もされる方なので。原作も、ウェットな描き方だけでなく、ギャグっぽい描写もあったりするので、その温度感やバランスを考えたときに、イシグロさんがベストかなと。あと、イシグロさんが、この原作を絶対気に入ると自信がありました(笑)。
—— なるほど(笑)。
松倉 実際、監督の依頼を送ったら即「OK」という返事をもらいました。それはキャラクターデザインの飯塚(晴子)さんも同じですね。飯塚さん本来の絵柄とは違うのですが、原作を読めば絶対に描きたくなるはずだと踏んでいたので。美術監督の水谷(利春)さんも僕から提案したのですが、そういうスタッフィング部分でも、風が吹いている感じはありました。
—— この作品を、TVシリーズでやっていくことの難しさは感じていますか?
松倉 かなり頑張らないといけない作品なのはわかっていました。ですが、スタッフの皆さんが原作に対して非常に好意的な印象を抱いているので、モチベーションは非常に高い状態です。
—— キャスト面では、チャクロ役には花江夏樹さんが、リコス役には新人の石見舞菜香さんが選ばれました。
松倉 ふたりともオーディションを開催して選ばせていただきました。主人公のチャクロは当然重要な役ですが、今回はリコスに石見さんを選ぶことができたのは大きかったです。リコスを表現できる、あの声のエリアの人ってあまりいないんですね。透明感もありながら、きちんと映像の中で「立つ」声で。音響監督も含めたスタッフ陣の間でも満場一致で彼女に決まりました。
—— 原作者である梅田(阿比)先生とはどのようなやり取りをしているのでしょうか。
松倉 基本的にはお任せいただいている感じです。アニメスタッフのことを信頼していただいているので大変ありがたいですね。もちろん、イシグロ監督とは細かい部分でやり取りしてもらっていますが、こちらはほぼノータッチです。僕はプロデューサーとして、作品の持つ大きなイメージだけブレないように制作できればと思っています。
—— 現状、制作の中で一番大変な部分はどこでしょうか。
松倉 『クジラ』の作風に合ったテンポ感を見つけることです。そこを探るのには時間がかかりました。最近のアニメはわりとテンポが早いのですが、この作品はゆったり見せたいところもたくさんあるんです。そのテンポ感によってストーリーの締めくくりを原作のどの段階にするのかが決まるわけで、そこは注意しました。
—— 好きなキャラクターはいますか?
松倉 ハムですね。手乗りマスコットなのに存在感もあって。原作の第7巻で、ギンシュと一緒に表紙に出てきたときもけっこうインパクトありましたけど、アニメーションでは動いて声も付いているので、こちらもかなり可愛くなっていると思います。
—— 最後に、作品の見所を教えてください。
松倉 絵がキレイなだけなものにはしたくないという思いはあります。キャラクターたちが活きていて、物語があって、きちんとエンターテインメントになっているという部分は大事にして作っていきたいですね。Netflixでも配信予定ですし、海外の人にとっても楽しめるものにしたいです。近年の作品としては珍しく、ディストピアものにおけるロマンみたいなものがきちんと感じられる作品なので。アニメも楽しみに待ってもらいつつ、梅田先生の原作や、その掲載誌である『ミステリーボニータ』にも興味を持ってもらえたら嬉しいです。