スタッフリレーインタビュー 第6回
撮影監督 大河内喜夫
スタッフリレーインタビュー第6回は、色彩設計を担当する石田美由紀氏に引き続き、J.C.STAFF所属のスタッフから大河内喜夫氏をお招きした。撮影監督として本作に携わる大河内氏に、アニメにおける撮影監督の役割から、『クジラの子らは砂上に歌う』で行っているチャレンジまでを伺った。放送直前、その画作りのこだわりを感じていただきたい。
撮影監督は、「料理における料理人」の役割です
—— まず、撮影監督という役割について教えてもらえればと思います。
大河内 基本的には、作画や背景、3Dモデルなど、各担当から上がってきた素材をひとつに合成(コンポジット)し、そこに特殊効果などエフェクトを足したりして、アニメーションとして最終的な画面づくりを行う仕事です。
—— なるほど。
大河内 例えるなら「料理における料理人」でしょうか。作画や3D、背景が野菜や肉といった食材だとしたら、撮影はオーダーやジャンルに合わせた調理法や味付けを加えて「料理=画」を作ります。監督の持つイメージや作品のテイスト素材の状態に合わせて、味付けを濃くしたり薄くしたり、焼き加減を変えたり調味料を加えたり…というのがデジタルにおける撮影の仕事でしょうか。
—— 非常にわかりやすいですね。作業がデジタルに移行してからは、仕事量は増えたのでしょうか?
大河内 そうですね。デジタルの導入でかなり各部署の境界線が曖昧になって、それぞれの部署に少しずつ新たな要素が加わっている形です。
—— では、『クジラ』の話に移行しますが、原作を読まれての印象はいかがでしたか?
大河内 私は作品が決まる前から、たまたま読ませていただいていて。印象としては、作品の世界を一から構築されているところに圧倒されました。
—— キャラクターや物語よりも、まず世界観に惹かれたと。
大河内 そうですね。今ある世界ではなくて、言葉とかも作り出そうとしている部分ですね。
—— 実際にアニメの制作に関わると知ったときは、どのような心境でしたか?
大河内 いざ関わるとなると、梅田(阿比)先生の世界をどのように具体化していくかに苦心しました。やはり世界観を一から構築されているので、参考になるものをなかなか外部から持って来られないんです。いわゆる史実に沿った作品や実在する舞台があれば、そういう映画や写真を参考にできますし、気温や湿度も調べることができます。ただ、完全にオリジナルですと、それがすごく難しいので。
—— 撮影部分でどのように、その世界観を表現したり補完したりするのでしょうか。
大河内 作業の最終工程ですので、背景や色彩設計の方が仕上げた色でまず雰囲気を掴んで、そこから質感や空気をどのように引き立てていくのか考えます。まずはPVを制作する段階でイシグロ(キョウヘイ)監督とイメージを擦り合わせていきました。最初は物語の内容に合わせて重厚なイメージで作っていたのですが、監督から「画はあえて重くしたくはない」という話をいただきました。それで、テスト段階ではもっと現実的だった砂の表現は、もう少しキラキラさせる形になったんです。
—— 原作と比較しても色が付いて動くと、作品的にはより残酷に見える描写もあるでしょうからね。
大河内 そうなんです。「画面から受ける印象は、もっと明るくて柔らかい印象にしたい」という方向性になりましたね。
—— この世界ならではという意味では、砂もそうですし、情念動(サイミア)と呼ばれるような特殊能力をCGで再現されています。撮影面で気を付けた部分はありますか?
大河内 それはいまもなお、悩んでいるところです。原作では、サイミアは体から浮かび上がるというか、まとわりついている形なんです。それを立体的に動いている作画に合わせてどこまで作り込んでいくのかを考えています。あまりやりすぎてしまうと作業が膨大になり、スケジュール面でも破綻してしまうので。
—— サイミアはキャラクターごとに、色や形も違いますからね。
大河内 各キャラクターに用意された形を間違えないというのが、基本ですけど大変なところです。原作でのサイミアのイメージは非常に綺麗なので、なるべく近づけたいとは思うのですが、戦闘シーンに反映するとなるとやはり難しい部分は多いですね。そこで変更点として、原作ではサイミアの中心部も模様が描き込まれているのですが、今回は周りのラインを残しつつ、中心部はなるべく透明にさせてもらっています。キャラクターが芝居をするときにサイミアがあると、顔が隠れてしまうことがあって。できれば表情は見えた方が良いので、隠さないように調整を図った形です。
—— 原作はかなり読み込まれているかと思いますが、好きなキャラクターはいますか?
大河内 うーん……やっぱり職業柄、キャラクターというよりは世界観を俯瞰して見てしまうところはありますね。なので今回、キャラクターのトレス(清書された線)が少しかすれているような撮影処理を施しているのですが、その処理が乗りやすいキャラクターは好きですね(笑)。
—— なるほど(笑)。では、大河内さんからみた、アニメ版の見どころを教えてください。
大河内 そうですね……梅田先生が構築した特殊な世界の中で展開するドラマを見て欲しいです。見た目や雰囲気も含めて独特な空気感がある作品なので、こちらとしてもそれが違和感にならないように魅力的に伝わることを考えながら進めています。デジタルですし3Dも使っているのですが、全体的な質感としては、フィルム時代のアニメーションの手触りを求めている作品だと思いますので、梅田先生が描かれている表現をどう落とし込めるのかが何よりも重要だと思っています。