スペシャル – スタッフリレーインタビュー5

スタッフリレーインタビュー 第5回
色彩設計 石田美由紀

『クジラの子らは砂上に歌う』、スタッフリレーインタビュー第5回としてお話を伺ったのは、色彩設計を担当する石田美由紀氏だ。原作や美術を参照しながら、キャラクターのカラーリングを決定していく「色彩設計」という作業。その具体的な作業工程や『クジラ』でのコンセプト、こだわりなどを話していただいた。

『クジラ』においては、色から反映される作品全体の雰囲気は重要

—— 石田さんが担当されている色彩設計という仕事は、どのような役割なのでしょうか。
石田  キャラクターデザインの飯塚(晴子)さんが仕上げたキャラクターに対して、原作のカラー原稿などを参考にしながら色を決めていく作業です。

—— 今回は原作があるというところで、梅田(阿比)先生が描かれている表紙やカラーページの色味を参考にされている形なのでしょうか。
石田  そうです。基本的にはそこが一番ブレではいけないところですね。作業としてはカラー参考があればあるほど良いので、梅田先生から(カラー)データもいただいています。

—— では作品の話になるのですが、原作を読まれた感想をお聞かせください。
石田  アニメ化に参加することが決まってから読ませていただいたので、表紙を見た段階で「どうしようかな……」と悩みました。私は仕事柄、表紙の絵を参照しつつ、ページに色を付けるような感覚で読み進めていくのですが、民俗学を勉強されているのかな、というくらいの、作り込まれた世界観があるじゃないですか。まず、その世界を把握して、先生の考えている色を掴んでいくのがなかなか大変でしたね。

—— 梅田先生のカラーにはどのような特徴を感じましたか?
石田  先生の色の付け方とか描き方としては、滲んだような色づかいが全体的に強いと思います。それをアニメにする際に、どのように表現していくのかが難しかったです。

—— なるほど。
石田  髪の毛にしても服にしても、アニメだと基本の色(ノーマル)と影の2色しかないので。先生の複雑な色の構成から、どこを拾っていくかという。

—— イシグロ(キョウヘイ)監督はどのような色味を求めているのでしょうか。
石田  イシグロ監督の作品はけっこう色味が強い印象があるので、そのあたりも『クジラ』に入れようとしています。第1弾のキービジュアルは特にそれが反映されていると思いますね。梅田先生のカラーからちょっと濃い目にして、赤だったり緑だったりを印象的にしているので。イシグロ監督とも、「どこまで色を強く出していきましょうか?」というのは相談しながら進めました。

—— 色彩設計として、美術監督の水谷(利春)さんが描く美術から色味が反映される部分はあるのでしょうか?
石田  水谷さんの美術背景は、遠近感を付けるために紫や青系の色が印象的に入っているんです。それをキャラにも反映させたいなと思っています。例えば実線の色は、赤紫っぽいテイストで扱っていたり。

—— そういう工夫もあるのですね。
石田  はい。監督の方からは、「灯りを大事にしたい」という話もありました。室内や夜はちゃんとした暗さがあって、光を引き立てて欲しいと。もちろん光源は意識して作画はするのですが、TVシリーズだとけっこうなカロリーが必要になってくるんです。ただ、作品として厚みが出るので、頑張っていきたいなと思います。

—— 『クジラ』の世界観がしっかりしているのもあるでしょうね。
石田  そうですね。作品によって頑張りどころは違うと思うのですが、特に『クジラ』においては、色から反映される作品全体の雰囲気は重要ですので。

—— 技術的な部分では、昨今は撮影技術が発達してデジタルになったことで、撮影段階で効果を入れるという話も伺います。その段階で意図した色味が画面上で出ないようなこともあるかと思うのですが、撮影スタッフとのやり取りはあるのでしょうか。
石田  今回撮影監督をされている大河内(喜夫)さんとは同じ会社ですし、付き合いも長いので。何かあればすぐに話し合える環境にあるので、作業はしやすいですね。

—— この作品の色彩で難しかった部分はどこでしたか?
石田  小物系や洋服とかもそうですが、「この赤色は、どういう理由で赤いのだろう」と考えるところが多かったです。例えば、チャクロが記録をしたためるインクの色ひとつとっても、泥クジラの中で、どのような素材でインクを作っているのかを考えはじめるわけです。

—— ファンタジーだと、際限がないですね
石田  はい。ただ、楽しい部分でもあります。今まで、私は現代劇に近いものが作品的に多かったので、世界観や素材まで考えを巡らせて色を作るということ自体あまりなかったんです。「植物はあるから、植物を使った染物はできるかな」みたいな。

—— キャラクター部分の色味はいかがでしたか?
石田  迷ったのは、オウニとスオウですかね。スオウの場合、全身が白いので(笑)、あまり目立たないというか。リコスの髪の色も、監督と飯塚さんでちょっとイメージが違っていて。最初のキービジュアルを作った時に「もうちょっと緑寄りの青」とか「もうちょっとブルーっぽい青」みたいな話はありました。

—— キャラクターの数が多いですが、そのあたりはどのように対処しているのでしょうか。
石田  「泥クジラ」の住人だけで何十人といるので、「長老会の人たち」とか、「体内モグラの人たち」とグループを作って。それぞれ色の印象がパッと見てわかる形にはしました。敵対するものが登場すれば、色としては敵が脅威として見えるように意識しています。

—— PVと共にキービジュアルも2枚アップされていますが、色彩部分ではどのような特徴がありますか?
石田  第2弾のキービジュアルは単色塗りと呼ばれる技法を使っているのですが、それはすごく大変でした。キービジュアルは作品の顔になるので、第1弾のものとここまで色味を変えるのは珍しいんです。イメージとしては、梅田先生のカラーのイラストに近づけるというか。ニビとか、まだ原作でもカラーイラストが出ていないキャラクターもあって、それを決め込んでいく作業も行いました。

—— では、第1話が放送直前となりますが、視聴者に期待してもらいたい部分はありますか?
石田  梅田先生の描かれるイメージが、アニメーションとして動くところはやはり見てもらいたいですね。その色の広がりが生み出す作画の雰囲気も味わっていただけると楽しめると思います。

PROFILE:J.C.STAFF所属。色彩設計としての参加作に、『ハチミツとクローバー』シリーズ、『ウィッチクラフトワークス』などがある。アニメミライ作品『アキの奏で』では、原案と演出、絵コンテも手掛けた。『クジラ』では、4名の社内スタッフと共に色彩作業を手掛けている。


第1弾キービジュアル(ティザービジュアル)

第2弾キービジュアル(メインビジュアル)

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© 梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会