スペシャル – スタッフリレーインタビュー3

スタッフリレーインタビュー 第3回
シリーズ構成 横手美智子

アニメ『クジラの子らは砂上に歌う』、放送前スタッフリレーインタビュー第3回は、シリーズ構成を担当した横手美智子氏にご登場いただいた。テレビシリーズという枠の中で、『クジラ』の世界観と魅力をどのように表現していくべきか―― イシグロ監督と話し合いながらシナリオを完成させた横手氏の視点から、アニメ版『クジラ』について語ってもらった。

サイミアを使うキャラクターたちの心情や行動が、
視聴者にとって理解できるものでなければ意味がない

—— どういった経緯で本作のシリーズ構成に就任したのでしょうか?
横手  何人か候補はいらっしゃったみたいなのですが、いろいろな話し合いの結果、私を選んでいただいたとのことです。その頃、私はギャグ作品の『斉木楠雄のΨ難』をやっていたので、原作を読んだときは「なぜ私に?」って思いました(笑)。私のキレイな部分を出して欲しいということなのかな? と(笑)。

—— (笑)。原作を読んでの感想はいかがでしたか?
横手  世界設定がすごく深くて広いので、これをテレビシリーズの中でさばき切れるかなという不安はありましたね。

—— シリーズ構成を考えると、まずその部分が大きかったわけですね。
横手  そうですね。ただ、やっぱり絵はすごくキレイですし、特にコミックスの表紙とかため息が出るほどで。ほかにも、キャラクターたちの生活感には魅力を感じました。ファンタジーなのにちゃんと、生きて食べて寝ている感じがする。

—— 生活感がきっちりと描かれていますね。
横手  食べ物も本当に美味しそうだったり、寝床が固くて狭そうだったり。常に砂がザラつく感じとか、そういうのも伝わってきて、「ちょっといいな。行ってみたいかも」と思いました。

—— シナリオとして反映していく上でも、そういった設定はなるべく残しながら進めていくことを考えられたと。
横手  アニメなので、絵や演出部分は(イシグロ)監督と作画陣にお任せになるのですが、私の担当するシナリオでいうと、セリフの大半は原作からいただきつつも、嘘なく、本当に会話しているかのように組み立てていきました。

—— イシグロ監督とは、シナリオ会議でどのようなお話をされたのでしょうか?
横手  「歌を出そう」と最初の段階からイシグロ監督が言ってくださって。そこから全体の物語を詰めていったという感じですね。

—— なるほど。シナリオにする上で調整が難しかったところはありますか?
横手  序盤から戦闘シーンが入るのですが、ひとつ目の山をどこに持ってくるかは悩みました。あとは、原作のどこを締めくくりに持ってくるか、というところですね。

—— まだ言えないところですね(笑)。
横手  はい(笑)。でも、後半の展開はちょっと迷った記憶があります。細かい部分では、私はこの作品におけるキャラクター同士の会話や泥クジラの設定などのディテールが好きなので、全体の物語を進めつつ、そういう部分にもスポットを当てられればと考えていました。

—— イシグロ監督がおっしゃった「歌を出す」というコンセプトは、どのようにシナリオに反映されたのでしょうか。
横手  マンガだと、ページ数がある限りずっと歌っていても良いのですが、アニメだと尺が決まっていて。その中でどれくらい歌わせるのかを監督と共に考えました。

—— 原作の梅田阿比先生とやり取りはあったのでしょうか?
横手  シナリオについてはほとんどお任せいただいたのですが、心情面に関して質問したことはありました。オウニや、団長(シュアン)の気持ちとか。マンガの中で描かれている表情だったり振る舞いだったりは、ある程度、読者の想像に委ねる描き方なんですよね。シナリオを書く上で、そういったニュアンスの部分を確認しました。

—— 梅田先生がどのような設定で描いているのかを確認されて、それをひとつの基準にしたと。
横手  はい。ただ、キャラクターの心情をすべてセリフにはしていません。受け取り方は、マンガと同様、観た人に任せられるようなものにしています。

—— 作品としては現代劇ではないファンタジーですが、シナリオを書く上で意識する部分はありますか?
横手  「心情をリアルに」ということは意識しています。例えば、この作品ではサイミア(情念動)という超能力が登場しますが、そういう実在しない能力を使うキャラクターたちの心情や行動が、視聴者にとって理解できるものでなければ意味がないんです。そこは頑張りました。

—— キャラクターに注目すると、リコスは感情がない“アパトイア”という存在から、徐々に脱却していきます。そのあたりの変化を描くのも難しいのかなと思いました。
横手  大変ではありましたけど、楽しかったですね。リコスはすごく可愛げがあるキャラクターなんです。母の気持ちで見ていました(笑)。

—— 可愛げという部分では、主人公のチャクロにもあるように思います。
横手  まるでヒロインみたいに悩んじゃう子ですよね。でも、彼はけっこう難しいんですよ。凹むけれど前向きという。

—— 「印」と「無印」のようなタイプの違いをセリフに反映することはありましたか?
横手  「無印」というと、やっぱりスオウとかタイシャが代表になると思うのですが、ふわっとしているというイメージがあります。一方で「印」の人たちは、子どもたちが中心なのもあって、行動力があって前向きというイメージがありました。

—— なるほど。ちなみにシナリオ会議はどんな様子だったのでしょうか。
横手  打ち合わせの雰囲気がすごく良いんですよ。泥クジラでキャラクターが和気藹々としている雰囲気に、そういう打ち合わせの空気が反映されているんじゃないかなと思います。

—— 今のところPVが2本出ていますけども、それをご覧になられての感想は?
横手  「ハードルが上がったね!」って、監督に言ってます(笑)。

—— (笑)。
横手  「これ以上のものをフィルムでやんなきゃいけないんだよ」って。私はすごく楽しみです(笑)。

—— どういった部分を観てほしい、というのはありますか?
横手  やっぱり“歌”と泥クジラでの生活の様相と、それらを表現する美術ですね。つまり全部ということなのですが(笑)、
ぜひ1話と言わず、すべてを観てもらいたいなと思います。

PROFILE:フリーの脚本家・小説家。アニメーションのほか、特撮やゲームのシナリオ・シリーズ構成も手掛けている。
シリーズ構成としての近作に、『ナイツ&マジック』、『斉木楠雄のΨ難』、『政宗くんのリベンジ』などがある。

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© 梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会