スペシャル – 監督

イシグロキョウヘイ監督 インタビュー

—— まず、原作にはどのような感想を持ちましたか?
イシグロ  王道のファンタジーという印象でした。原作はJ.C.STAFFの松倉(友二)プロデューサーに教えていただいて、「(アニメ版の監督に) 興味ありますか?」と連絡がきたんです。すぐに原作を読んだのですが、「こんな面白い作品のオファーなら絶対に受けた方がいい!」と読んだその日に手を挙げました。

—— 内容的には、どの部分に惹かれましたか?
イシグロ  独特な世界観と、群像劇ですね。「砂の海を漂流する」という設定を漫画の中に定着させるのは、技術とセンスがないと難しいと思うのですが、梅田(阿比)先生の画力のお陰で違和感なくスッと入ってくる。そして多彩なキャラクターが、物語の中でそれぞれきちんと立っている。そういった魅力を、アニメでも丁寧に描くべく、スタッフと話し合っているところです。

—— アニメ化する上で、意識している点は?
イシグロ  基本的には、梅田先生が創り上げた原作の世界観に寄り添うことですね。アニメにする上でどのように表現するか迷うところがあったら、逐一梅田先生に確認しています。シナリオも横手(美智子)さんと方向性をすり合わせながら、原作を壊さないように進めていこうと。キャラクターデザインに関しては、飯塚(晴子)さんとこの作品の相性はいいなと予感していましたし、実際に上がってきたラフ画を見て、「これは勝ったな」と思いましたね。腕の描き方だったりシルエットの捉え方だったりは飯塚さんならではのものなのに、梅田先生のキャラの重要な部分は拾ってもらっている、とてもいいデザインでした。

—— 監督が重点に置いていることはなんですか?
イシグロ  現在はまさにアニメに落とし込んでいく作業中なのですが、舞台となる泥クジラには果たしてインフラと呼べる物は存在するのか、科学技術のレベルは一体どのような状態なのか、泥クジラが砂の海を漂流しているとすれば、太陽の位置は毎回異なるのか――など、設定をひとつひとつ決めていく必要があるので大変です。しかし、「実在しない物に実体感を与えられる」のがアニメの強みであるので、美術監督の水谷(利春)さんとイメージの共有を図りながら世界観を構築しています。

—— 情念動(サイミア)という超能力者が登場しますが、どのように描写しようと思っていますか?
イシグロ  「サイミア」を使うときに浮かび上がる「念紋(アウラ)」は、映像ですから動きも音も色も付ける必要があります。それはスタッフにイメージを伝えて作業しているところですので、原作ファンの方も楽しみにしてもらいたいです。

—— 主人公チャクロは、ハイパーグラフィア(過書の病)という、すべてを文字で記録する特性があります。
イシグロ  この作品のテーマを考えたときに、やはり「記録」は重要ですね。作中でも語られているのですが、チャクロの個人的な記録を僕らが読み返している形なので。視点的には第三者的でもいいのかなと思うこともあるのですが、それだとキャラクターの描き方が変わってくるので、どのように表現するかは苦心しているところではあります。

—— 一方で、ヒロインのリコスは謎めいた部分の多い少女ですね。
イシグロ  彼女については“感情がない”状態で登場するキャラクターなので、声の芝居を重要視しています。感情がなかった彼女が、物語が進む中でどう変わっていくのかにこだわって描きたいと思います。PVでもチャクロとリコスの声が聴けるので、その演技から作品の鍵を見つけてもらえればと思います。

—— ほかに注目してほしいポイントはありますか?
イシグロ  音楽ですね。PVでは、泥クジラで詠まれた詞、「砂詞(すなことば)」を歌った楽曲が流れているのですが、作品全体のイメージをそこに込めています。テーマとしては「ユニゾン/斉唱」ですね。本編でも、音楽の部分にも着目していただきたいです。

—— では最後に、読者にメッセージをお願いいたします。
イシグロ  なるべく原作を先に読んで欲しいですね。ストーリーを先に知ったとしてもアニメ視聴の楽しみが損なわれる類の作品では決してないので、『クジラの子らは砂上に歌う』を身体に馴染ませてもらって、10月からスタートするアニメ本編を楽しんでもらうのがいい形かと思います。監督としては、原作には寄り添いながらも、幅広い層の方々に観てもらえるよう考えながら作業を進めたいと思います。

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© 梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会