スペシャル – スタッフリレーインタビュー1

スタッフリレーインタビュー 第1回
キャラクターデザイン 飯塚晴子

アニメ『クジラの子らは砂上に歌う』でキャラクターデザインを手掛けるのは、作画監督としても数々のアニメ作品で活躍するアニメーター・飯塚晴子氏だ。現在、デザイン作業中である彼女に、『クジラ』の魅力とデザイン作業におけるコンセプトについて伺った。

原作の魅力である柔軟な作画を、アニメとしてどのように落とし込むか

—— 飯塚さんの参加の経緯をお聞かせください。
飯塚  J.C.STAFFプロデューサーの松倉(友二)さんからご連絡いただいて、『クジラ』の漫画を渡されたのが最初ですね。

—— 原作を読んでの印象はいかがでしたか?
飯塚  全体としては、壮大なドラマがある群像劇だなと。あとは、幼いキャラクターたちが涙している場面が非常に印象的でした。“泣いちゃいけない”というルールがありながらも、真っ先に泣いてしまうチャクロが特に。そういった部分から、キャラクターと世界観に一気に引き込まれました。「なぜ泣いちゃいけないんだろう?」とか、謎めいたところがあって。

—— 実際にキャラクターデザインをする上では、どのように取り組もうとしましたか?
飯塚  この作品は、今まで私がやってきた原作モノの中でも異色なんです。梅田(阿比)先生の中ではもちろん固まった概念があると思うのですが、細かいディテールを揃えるというよりも、世界観や状況に応じて描かれている、非常に柔軟な作画なんですね。これはアニメにする場合はすごく難しいなと感じました。そこが今までの作品とは違うし、一方でチャレンジしてみたいなと。

—— なるほど。
飯塚  梅田先生の絵はすごく素敵なので、この魅力をどのように活かそうかなと。本来は漫画でしかできない表現といっても良いと思うのですが、それをアニメで動くキャラクターとしてどのように落とし込むかを考える日々です。

—— デザイン過程ではどういった部分を意識しましたか?
飯塚  チャクロに関しては、サイミアをうまく扱えなくて怒られているシーンとか、原作の1巻で泥クジラ内を駆け回っているところに注目しました。この辺りの場面では、彼も年相応に描かれているんですよ。設定として起こす表情集では、本人の持つキャラクター性が伝わるのが重要になるので。

—— 彼の少年性というか、性格面をきっちり起こしていくと。
飯塚  そうですね。基本的に表情集は本編ではそのまま使われるわけではないですから。どの作品でもそうなのですが、「こういうキャラだよ」と作画スタッフに指示するために描いています。

—— 監督のイシグロ(キョウヘイ)さんとデザインについて話すことはありましたか?
飯塚  基本的にはお任せいただいていますね。ハイライトを入れてほしいというのと、表情集で「崩し顔」を入れておいてくださいとだけ言われました。

—— 昨年末の段階で、チャクロとリコス、オウニはアップされていたようですね。
飯塚  その3人からデザインに取り掛かりました。難しかったのはオウニですね。フォルムから大変でした。髪の毛も長いし、細身で描かれているので、バランスが難しくて。あと、色気も重要な部分だったので、それを出すために苦労しました。

—— チャクロ、リコスはいかがでしたか?
飯塚  作品として老若男女出て来るので、チャクロはだいぶ幼なめに描いています。彼を基準にして、そこから人間の幅が出せればいいなと。リコスは「感情のないキャラクター」という設定もあるので、お人形さんみたいなイメージですね。色彩設計さんからカラー付きの画稿がアップされたとき、ヒロインというよりはヒーローみたいな強さが感じられて良かったです。一方でチャクロがヒロインというか(笑)。このあたりは色彩さんのセンスというか、カラーが送られてきたときはその素敵さに思わず「ヒャ!」って声が出ましたね(笑)。

—— 色彩関係はけっこうおまかせですか?
飯塚  そうですね。J.C.STAFFさんのカラーは気持ちが良いので。

—— 服装はいかがですか?
飯塚  そのあたりは、アニメとして描けるギリギリのところを入れられれば。大変だけどこれくらいなら、というところを抑える形です。

—— デザインを描き進めていく中で、大変だったキャラクターはありましたか?
飯塚  スオウと団長ですかね。スオウはなかなか儚くならなくて。たくましくしてしまうと儚げがなくなり、細すぎると首長としての頼りがいがなくなってしまって、そのバランスが難しかったです。結果的にはカラーが付いたことで、良い感じになったと思います。

—— 団長の難しかったところはどこですか?
飯塚  肩幅が広いのですが顔は美形で、しかも(眼帯で)顔が隠れているので、何を考えているのかわからないキャラクターなんです。原作だともうちょっと外套が長くて手が隠れるくらいあるのですが、手が隠れるとバランスが難しいのでこのくらいにしました。

—— リョダリやオルカなどはいかがですか?
飯塚  リョダリは描きやすいと思います(笑)。作画さんも楽しいキャラだと思いますね。動かすのが一番楽しめると思います。

—— サミなど、泥クジラのほかのキャラはいかがですか?
飯塚  サミは私のお気に入りキャラなんです。ネズは、お腹周りをもっとだらしなく、と監督に言われました(笑)。細身のキャラも多いので。

—— 3月に公開された、第1弾PVをご覧になった際のご感想をお聞かせください。
飯塚  本編どうしようかなというクオリティで。スタッフとしては、イシグロ監督が描く世界観にご一緒できるのは楽しみですね。

—— 最後に、ファンの方に観てもらいたい点をお聞かせください。
飯塚  アニメならではの、キャラクターに声や音や色が付いて、なおかつ動いて芝居をしていくところでしょうか。それに監督がイシグロさんなので、気持ちの良い、安心して観ていただけるような作品になると思います。梅田先生の色使いを受けた美術も美しいので、原作の世界観を気に入ってくださる人にはちゃんと刺さる映像になるのではないかなと感じています。

PROFILE:フリーのアニメーター、キャラクターデザイナー。
近作に『田中くんはいつもけだるげ』や『たまゆら』シリーズ(キャラクターデザイン)など。

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© 梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会